02/10/2014

【衝撃事件の核心】 コンビニ「土下座」事件の一部始終…動画投稿で墓穴、ネットの“捜査力”に追い詰められた狼藉男女(産経 WEST)
 「謝って済むもんちゃうで」「こんな店、潰してしまったらええやん」。罵声が倉庫内に響き、店長らは何度も土下座を繰り返した。大阪府茨木市のコンビニエンスストアで9月8日、男女4人が接客態度に言いがかりをつけて謝罪を要求、商品のたばこを脅し取る事件があった。発覚したのは、4人のうち1人が店長らの謝罪の様子をスマートフォンで動画撮影し、インターネットの動画サイトに投稿したことがきっかけ。動画は瞬く間に拡散し、悪質な行為への批判が殺到。ネットユーザーが“捜査能力”を発揮し、個人情報が徹底的に調べ上げられた。一方、大阪府警にとっては、動画は犯行の動かぬ証拠。4人は恐喝容疑で逮捕された。

「謝った方がいいんちゃうん?」
 《午前1時ごろ》
 茨木市横江の「ファミリーマート茨木横江店」に、数人の男女が入店した。数時間前から駐車場に10人ほどが集まって、大声で話をしたり、バイクを空ぶかししたりしていたメンバーだ。そのうち、20代ぐらいの男がレジにいた男性店長(25)に空のペットボトルを突き出し、「水入れて」と要求してきたという。
 「そんなサービスはやっておりません」
 店長は断ったが、男は勝手にトイレに入って水をくみ、他の男女も店内で飲食をするなど、好き勝手な行動を始めた。そして、何人かが商品を購入しようとしたが、堪忍袋の緒が切れていた店長は、これを拒否する。
 「出て行けや。お前ら客ちゃうやろ、出て行けや」
 「いや、はよレジ通せって」
 「客ちゃうやろ、はよ帰れや」
 「こいつほんまなめとんのか? お前、表出てこいや」
 このときの様子も何者かが撮影し、サイトに投稿されていた。動画には、1人が店長に向かって商品とみられる飲み物を投げつけていた状況も映っている。
 《午前3時ごろ》
 男女はいったん店から引き上げたが、知人という無職男(39)が来店。「謝った方がいいんちゃうん?」と言ってきたという。
 男はスマートフォンで店長の様子を動画撮影し始め、これを店長が取り上げたところ、店長の手が洗い物をしていたために濡れていたとして、激怒。こうまくしたてた。
 「何汚い手で触っとんのじゃ」「オーナー呼ばんかい」

「話し合い」という名の恫喝
 《午前7時ごろ》
 こんな騒ぎになっているとも知らず、店長の父親でオーナーの男性(51)が出勤。店に入ろうとすると、駐車場にいた男に「ちょっと話あるんだけど」と呼び止められた。一緒にいたのは府内のアルバイト従業員の女(39)と娘の10代の少女。3人は「お前のところの接客、どうなってんねん」と騒ぎ始めた。そのうち、「お前じゃ話にならんから、上のやつを呼べ」と要求してきたという。
 《午前10時ごろ》
 男の「先輩格」という、不動産会社の従業員の知人男(46)も来店。連絡を受けて駆けつけたファミリーマート本社の男性エリアマネジャー(41)も交え、店内の倉庫で話し合いが始まったが、内容は「話し合い」と呼べるものではなかった。
 「おい、こら。表出ろや。きっしょい(気持ち悪い)わー」
 「ほんま殴んで」
 「お前みたいなクソガキになめられんの、腹立つねん」
少女が撮影した動画には、恫喝を繰り返す様子が映っている。
 「これ(店長)のしつけが悪いからこんな事になってんのやろ」
 「うちの若い衆が店に車突っ込む言うてんで。知らんでー」
女や知人男はこう茶々を入れていた。
 店長やオーナーは「申し訳ございません」と、ただ土下座して謝るしかなかった。
 しかし、それでも収まらず、要求も次第にエスカレート。知人男は「俺らでも謝りに行くとき手ぶらで行かへんで」などと述べ、「濡れた手で触られて汚れた」とするスマホの機種変更を要求。店側がスマホの弁償を了承すると、味を占めたのか、たばこを差し出すようにも求め、計6カートン(2万6700円相当)を脅し取った。

祭り→特定→逮捕
 《マジ店員がかわいそうだ》
 少女が撮影した倉庫内での「話し合い」がネットにアップされると、一斉に非難の声が上がった。
 《こんな非常識なやつらは許せない》
 《普通に犯罪じゃないの?これ》
 昨年、衣料量販店「ファッションセンターしまむら」の札幌市の店舗で、商品が不良品だったと言いがかりをつけて従業員に土下座を強要したとして40代の女が北海道警に逮捕された事件を引き合いに、「しまむらの事件よりも、さらに悪質」との書き込みもあった。
 やがて、ネットユーザーによる大規模な犯人捜しがスタート。ツイッターやフェイスブックなどの情報から一部の容疑者の名前や写真が割り出され、「祭り」状態に。その結果、騒動は幕切れを迎えた。
 9日、男が「ネットで動画が流れて怖くなった」と警察に出頭。他の3人も11日までに逮捕された。知人男はネット上で勤務先が割り出され、不動産会社は「道義的責任を感じざるを得ず、誠に遺憾に存じます」との内容の謝罪文をホームページに掲載する羽目にもなった。
 とんだ災難に巻き込まれたコンビニ。事件後、店には100件近くの電話があり、ほとんどが激励のメッセージだったという。
 「お客さんのありがたみが身に染みた」  オーナーは産経新聞の取材に応じ、こう話した。ネット上での書き込みが店側に同情的だったことも、励みになったとする。  ただ、今でも、派手な格好をした客が来ると、恐怖を感じてしまうという。