自転車と歩行者の事故で、加害者側が保険に未加入だったため、被害者側が勝訴しても賠償を受けられないケースが出始めている。被害者からは「自転車にも車の自賠責保険のような制度があれば」との声も聞かれる。セーフティーネットの未整備は、被害者をさらに苦しめている。【馬場直子、北村和巳】
東京都品川区の女性(67)は03年4月、健康診断の結果を聞くため病院に向かう途中、自宅近くの狭い交差点で近所の男性(58)の自転車とぶつかり転倒、左足の太ももを骨折して3カ月入院した。夫は脳卒中で入院中。パートなどで一家の家計を支えてきた女性にとって、約80万円の治療費は大きな出費だった。
不幸は重なる。その年の大みそかに、茨城県に住む母が病気で倒れて入院した。平日は面倒をみるため痛む足を引きずりながら、母が亡くなった04年4月まで東京と茨城を往復する生活が続いた。
事故の際、女性は「はねられた」と思ったが、相手の男性は「自転車にまたがって止まっていたら女性がぶつかってきた」と主張し不起訴処分となった。「真実を明らかにしてほしい」。女性は05年4月、東京地裁に提訴した。1年半後、判決は「走行中の自転車が女性にぶつかった」と認め、男性に567万円の賠償を命じた。その約半年後の07年3月に2審も勝訴し、判決は確定した。
しかし、男性は保険に入っていなかった。女性は男性の給料を差し押さえようとしたが、男性は自己破産を申し立てて認められた。破産により賠償が免責されるかどうかの訴訟を最高裁まで争ったが、今年7月に敗訴が確定した。
5年を超えた裁判闘争で、手元に残ったのは費用の借金と箱いっぱいの裁判資料。今も足にはボルトが入る。年金収入だけでは家賃の支払いも大変で、将来も不安だ。睡眠薬に頼る日もある。
事故後、自転車とすれ違うと怖くて、近くに壁があるとへばりつくこともあった。自動車との事故なら加害者の自賠責保険で賠償され、たとえ無保険でも国による保障制度があるが、自転車にはそんな救済システムはない。「加害者は賠償するのが当然なのに。ただ悔しい」と言う。
一方、男性は「こちらは悪くない。警察でも検察でも自分の主張は通って(不起訴処分となって)いるのに民事裁判で負けてしまった」と語る。賠償額は法定利息も含めると800万円近く。「払えるわけない。保険に入っていればよかったと思うが。自己破産するしかなかった」と首を振った。女性がけがをしたのは気の毒だと思う。だが、自己破産で自身も従来通りの生活はできなくなった。「事故で家の中、がたがたですよ」。男性はつぶやいた。
◇保険加入義務づけ 半数「必要ない」
全日本交通安全協会が05年に実施したアンケートによると、自転車利用者に保険加入を義務づけることを「必要」とした人は33.1%で3人に1人程度。「必要ない」とした人は半数近くの47.0%にのぼった。このうちほとんど毎日自転車に乗る人では「必要」が22.5%にとどまる一方、「必要ない」は過半数の55.0%。利用頻度が高いほど事故などのリスクが高まるにもかかわらず、利用者の意識に大きなギャップが生じている実態が浮かぶ。
義務づけが必要ない理由(複数回答)については81.9%が「利用者が自主的に考えること」としたが、「費用がかかるから」(24.4%)や、「自転車は死傷事故の加害者となることがほとんどない」(21.0%)というものもあった。
交通事故訴訟にかかわる弁護士からは「お金がない人ほど任意保険に入らない現状がある。自転車にも自賠責保険のような強制加入保険制度が必要だ」との指摘も上がる。【北村和巳】
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毎日新聞 2010年8月22日 2時30分(最終更新 8月22日 3時13分)
僕は日常の移動は自転車でしており、少ない日で20キロ、多ければ50キロは乗っている。
それだけに自転車が事故の被害者だけでなく加害者になる可能性が大きいことも知っている。自転車に乗る者のマナーが改善されなければ何をやっても意味はないんだろうけど、歩行者と自転車との移動する場所を隔離してしまうことも大切。ただコレをやっても自転車が通行するべき場所が車の駐停車スペースと化してしまうだろうから、あまり意味がないのかな。
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