16/03/2012

訃報:吉本隆明さん

訃報:吉本隆明さん87歳=評論家、詩人 (毎日.jp)

 1960年代の新左翼運動で教祖的存在と目され、独自の思考に根ざした文化・社会批評で戦後思想界を牽引(けんいん)した詩人、評論家の吉本隆明(よしもと・たかあき)さんが16日午前2時13分、肺炎のため東京都文京区の病院で死去した。87歳。葬儀は近親者のみで行う。喪主は未定。
  24年、東京・月島に生まれた。東京工業大電気化学科在学中、動員された富山県魚津市で終戦を迎えた。47年に同大を卒業後、中小工場の技術労働者として労働組合運動により失職を繰り返し、この間、執筆活動を始めた。
  長編詩「固有時との対話」(52年)、詩集「転位のための十篇」(53年)を発表し、54年に「荒地」詩人賞を受賞。詩壇で活躍する一方、「高村光太郎」(57年)などで文学者の戦争責任を論じた。転向論をめぐって花田清輝と論争し、注目を集めた。
  60年安保闘争に参加し、61年に雑誌「試行」を創刊(97年終刊)。独自に左翼思想を分析・解明し、「擬制の終焉」(62年)などで旧来の前衛諸党派を批判した。言語論に基づく斬新な思想形成を進め、「言語にとって美とはなにか」(65年)、「共同幻想論」(68年)、「心的現象論序説」(71年)などを書いた。外来思想に依拠した文化全般に痛烈な批評を続け、60年代後半の大学紛争では著作がバイブル視されるなど、60~70年代の青年層に広く影響を及ぼした。
  80年代以後は、サブカルチャーを含む文化・社会の変化を多面的に探究。「マス・イメージ論」(84年)、「ハイ・イメージ論」(89~94年)など、消費社会に生きる大衆の実相に寄り添う評論を発表した。「最後の親鸞」(76年)などで宗教を手掛かりに日本人の精神構造を問い、95年のオウム真理教事件についても積極的に発言した。
  「吉本隆明全著作集」「吉本隆明全集撰」があるほか、著書は膨大な数に上る。03年に「夏目漱石を読む」で小林秀雄賞、「吉本隆明全詩集」で藤村記念歴程賞。09年には宮沢賢治賞を受賞するなど最晩年まで旺盛な著作の発表を続けた。作家のよしもとばななさんは次女。
  1月にかぜをこじらせて入院していた。
 毎日新聞 2012年3月16日 7時04分(最終更新 3月16日 12時56分)

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